はじめに
映画には、観る人の心を揺さぶり、忘れられない感情を残してくれる作品がある。
僕にとって『アフターサン』（Aftersun）はまさにそんな一本。
初めて観たとき、何気ない親子の夏の思い出が、時間を超えて心に沁み込んでくる感覚に襲われた。
シンプルな物語なのに、静かに、でも確実に心を締めつけてくる。
今回は、そんな僕の大好きな映画『アフターサン』について語っていきたい。
『アフターサン』ってどんな映画？
あらすじ
物語の舞台は1990年代のトルコ。
11歳の少女ソフィは、普段離れて暮らす父カラムと一緒に夏休みを過ごす。
太陽が降り注ぐリゾート地で、二人はビデオカメラを回しながら何気ない時間を共有していく。
しかし、20年後。
大人になったソフィがかつての映像を見返すことで、当時は知り得なかった父の苦悩や想いに気づいていく。
輝かしい記憶の裏側にあるもの。
大好きだった父のことを、彼と同じ年齢になった今、改めて知ろうとする娘の視点が交差しながら物語が紡がれる。
なぜこの映画が大好きなのか
この作品には、僕が心から魅了されたポイントがいくつもある。
その中でも特に印象的だった部分を紹介したい。
① ありふれた時間の美しさ
派手なドラマがあるわけじゃない。
親子の会話も、日常的で穏やか。
それでも、ふとした瞬間の仕草や言葉が、観る者の心に深く刺さる。
ビデオカメラを回しながら、笑い合う二人。
プールサイドで並んで座る時間。
こうした何気ないシーンが、あとになってから切実に響いてくる。
過去の記憶を振り返るとき、僕たちもこういう何気ない瞬間こそが一番愛おしく感じるもの。
その感覚を、この映画は完璧に映し出している。
② 父親カラムの存在
カラムを演じるポール・メスカルの演技が本当に素晴らしい。
優しくてユーモアもあって、ソフィを心から愛していることが伝わってくる。
でも、その笑顔の裏側には何か影がある。
夜中に一人で泣いたり、意味深に沈黙したりするシーンが、心にひっかかる。
「親だって完璧じゃない」ということを、ソフィが20年後に知るというのもリアル。
子どもだった頃はわからなかった親の苦しみや葛藤。
大人になって初めて気づくことがある。
それを知ったとき、ソフィはどう感じたのか。
観ている僕たちも、自分の親のことを思わず考えてしまう。
③ 映像と音楽の余韻
この映画はとにかく映像が美しい。
太陽が眩しく照りつけるリゾート地の景色。
水面に反射する光。
どこか夢の中のような、儚さのある映像。
音楽の使い方も印象的で、特にラストのダンスシーン。
父と娘が一緒に踊るその瞬間に、彼らの全ての感情が詰まっているように感じる。
このシーンを思い出すだけで、また胸がぎゅっと締めつけられる。
言葉では言い表せない感情が、映像と音楽でダイレクトに伝わってくるのがこの映画の魔法。
『アフターサン』はどんな人におすすめ？
この映画は、特にこんな人に観てほしい。
- 過去の思い出を振り返ることがある人
- 親子の関係について考えることが好きな人
- 余韻の残る映画が好きな人
派手な展開や刺激的なストーリーを求める人には向いていないかもしれない。
でも、静かに心に染み込むような作品を求めているなら、きっとこの映画は特別な一本になるはず。
まとめ
『アフターサン』は、一度観たら忘れられない映画。
まるで自分の記憶の一部になったような気がするほど、心に残る。
シンプルなストーリーの中にある深い感情。
愛と喪失、時間の流れ、そして記憶の温かさ。
そんなものを改めて感じさせてくれる作品。
まだ観たことがないなら、ぜひ一度体験してほしい。
きっと、あなたの心の奥にも何かを残してくれるはず。